昔、にんじん文庫をやっていた。

図書館から本を借りて、近所の子ども達に貸し出す。読みきかせをする。一緒に豆腐を作る。キャンプに行くなど。

その後、診療所を開業し、ことばの相談室を開いたので、絵本と児童書はさらに数を加えて、子どもにことばを伝えるツールとして活躍した。今も、定番の絵本を診察室に並べている。

最近、10代の子ども達と出会う機会が多くなり、これまでそろえた本の枠に収まりきれなくなった。Amazonで新しい本を見つけ出すのは難しい。本屋の書棚を探して、その中味と手触りからふっと選ぶ。

『百年の家』もそんな1冊だった。

この家のドアの上の横板には、1656年と記されている。だから、実は300年以上も同じ場所に立っていたことになる。場所はヨーロッパのどこか。。

借りて行った5年生はこの石造りの家が蘇った1900年から取り壊される1999年までの年表を作ってきてくれた。とてもわかりやすい。

若い夫婦が結婚して子を産み、夫は戦争で亡くなった。次の戦争があり、この家は戦火を逃れて来た人々の避難所となった。息子は故郷を去り、10年後には母親が亡くなった。誰も住まない家は朽ちて崩れ落ち、同じ土地に現代風の家を建てて新しい家族が移り住んだ。

私と彼は、全く同じ構図で繰り返し描かれた家とまわりの土地、人々の変遷について語り合った。とりわけ、森と家の境がはっきりしない初期の頃、家の周りに出没するフクロウやカラス、キツネや兎などの動物について。

11歳の子どもがどのようにして、いやそれは大人にも言えることで、100年の時間の流れを俯瞰的に把握できるのかわからないが、この絵は家に託してみせることで成功しているように思える。

家の右手にある井戸が、100年前は紐をつけたバケツに水を満たして、手で引っぱりあげていたものが、次第に滑車で紐を滑らせて汲み上げ、次はポンプ式井戸に改良されて行く様が描かれているのが面白かった。

 

(『百年の家』 作/J.パトリック•ルイス 絵/ロベルト•インノチェンティ 訳/長田弘 講談社)