専門学校の言語聴覚士養成学科一年生に小児科学を講義しています。講義が終わったら、例年レポートを書いてもらいます。小児科学の講義で学んだ疾患の中から一つを選んでまとめ、その疾患の子どもが普通学級で学ぶ時にどんな援助が必要か考えるというものです。

今年は次のような疾患を、それぞれが選びました。

ダウン症 自閉症 注意欠陥多動性障害(ADHD)てんかん 脳性麻痺  重症心身障害 学習障害 聴覚障害 子ども虐待の併存症 染色体異常症 摂食嚥下機能の発達

フレッシュマンと言っても大学を卒業してすぐ、あるいはしばらく仕事をした後に、再度学び直そうという学生達です。まず、授業で印象に残った疾患、これまで自分が関わりのあった疾患を選んで歴史、原因、疫学、症状、治療方法を調べてまとめています。

ダウン症は、身近にであった学生が多かったこと、出生前診断を含めて先天性疾患に講義時間をさいたので、多くの学生がテーマに選んだと思われます。映像で「誰でもダウン症の子を持つ可能性がある」「ふつうの子どもより少しゆっくり成長するというだけで偏見をもって欲しくない」という親の意見を紹介しました。

「障害」を支援の対象としてだけではなく、自分の生活と一続きのあり方としてとらえることが、誰にとっても必要です。

ある学生は気持ちが落ち込んで駅前のカフェの椅子に座っていた時、傘をもった青年がくるくる回りながら近づいて来て「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と呟いて過ぎて行った情景を思い出し、どうして彼は自分の気持ちがわかったのだろうと怪しみつつも気持ちが高揚してきたこと、3回目には怖くなってその場を離れたと、映画のワンシーンにありそうな体験を語った後で、彼は自閉症だったかもしれないと考え、今回のテーマに自閉症を選びました。

多くの学生が授業で、NHK福祉ネットワークのドキュメンタリー『ボクの生きる“自閉症の世界” 』を見て、自閉症者への見方が大きく変わったと報告しています。

ー養護学校中学部に通う東田直樹くん(14)は、自閉症。コミュニケーションが苦手で話すことはできないが、パソコンや文字盤を使えば自分の思いを表現することができる。文字盤を介しての本人インタビューを交え、直樹くんの「心の声」を見つめる。(DVDを貸し出すNKH厚生文化事業団の紹介から)

言語聴覚士となる彼等にとって、自分の仕事が垣間見える映像でもあったようです。

さて、第2の設問はこの疾患の子どもが普通学級で学んだ場合に何が必要であるか、何が困難であるかを考察し、対処法を考えるというものでした。

普通学級や幼稚園、保育園に通う子どもたちの相談を受けている私は、解決方法を探して本人と会い、両親と話合ったり、学校に出かけて行って先生と話したりしています。授業では本人と保護者に了解を得て彼等の学校生活を紹介しています。

学生の率直な考えに、ふむふむと頷いたり、新しい視点からの指摘に驚いたり、そこっ!もう一歩踏み込んで、などとホットになったりしながら読み進みました。

教育学部を卒業した学生の中には、障害を持っている子どもは能力に応じて、特別支援学校、特別支援学級で学ぶことが当たり前に思っていたのだが、授業で普通学級に通っている子どもの報告をきいて、その考えを見直してみたと記していました。

支援の形が比較的見えやすいのは、てんかん、聴覚障害、脳性麻痺、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害などでした。

どの疾患の子どもの場合にも共通して、普通学級に在籍した場合、教師がその疾患について学び、適切に対処できるようになること。出来る限り行事や体育活動に参加できるように配慮する。また、その疾患をもっている子どもについて周りの子どもたちの理解を促すという3点があげられていました。担任に加えて学習補助員の教師を増やすべきだという提案もありました。

各疾患それぞれに、てんかんでは発作への適切な対処、聴覚障害児の場合は、援助者が講義の内容をノートに書き写すノートティキングや、パソコンを活用した文字による情報提供、脳性麻痺児では移動が安全にできる環境をつくるため、スロープ、エレベーター、手すりの設置が必要となります。注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもの対処法について、学生は自問自答しながら記し、教室内での座席の取り方や、分かりやすい指示のし方、即ち「イメージしやすいように具体的に」「手順を簡潔に一から一つずつ」「始まりと終わりの目安をあらかじめ伝えておく」という、どの生徒にとっても必要な方法を述べています。

自閉症、ダウン症、重症心身障害の子どもが普通学級で学ぶ場合、原則はこれまでに述べた疾患の子どもたちと同じですが、学校生活でより困難さを抱えるととらえ、どう解決すれば良いかが述べられていました。

授業では運動障害が重く、チューブ栄養を取っている子どもが保育園に入園、小学校普通学級に入学した例を紹介しましたが、重症心身障害児が毎日、普通学級に通うことはイメージしにくく、行事への一時的な参加が提案されていました。来年は人工呼吸器をつけた子どもたちの普通学級入学を進めているバクバクの会の紹介をしたいと思います。

http://www.bakubaku.org

自閉症の場合は注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもへの対処法に加えて、コミュニケーションがとりずらいために、他の子どもたちと疎遠になったり、トラブルになった場合の解決策を述べています。クラス内でその子に役割をもたせて、居場所を確保することが第一にすべきことかもしれません。東田君のように発語に困難を抱える子どもには、タブレットの使用も提案されていました。

「自閉症の子に対する配慮が行き届いている学級は、どの子にとっても安心して学習できる環境」という指摘があり、改めて納得しました。

ダウン症では、他の子どもに比べて言語や運動がゆっくり伸びて行くので、教室に入って学習をサポートする教員が必要となります。または特別支援学級で国語、算数等の学習をして、他の時間を普通学級で過ごす交流を提案した学生も多く、重度の障害があれば、特別支援学校への入学を考えた方が良いとするレポートもありました。

ダウン症だけではなく、知的障害をもっている子どもの場合には学習についていけるかが課題となります。普通学級に通学しているあるダウン症の子どもは、低学年では教室に親やボランティアが付き添っていましたが、高学年になるにつれて時間を減らし、現在ではひとりで教室の活動に参加しています。時々宿題のノートを見せてもらうと、自分の実力に応じた算数、国語の課題に取り組んでいることが分かります。

それぞれの子どもがクラスで居場所を得て、実力に応じて学んで行ける環境をどうしたら実現できるかを、これからも、授業を通じて学生と一緒に考えてみたいと思っています。