子どもの時に祖母から聞いた山姥の話を、モンゴル語で文章にしてみたのは、5年前だったかもしれない。その後、モンゴルの子どもたちに届けたいと紙芝居を作り始め、2014年には今の形になった。昔話と紙芝居の大家からストーリーに意見をいただき、2人のモンゴル人に監修を、日本人画家に絵を描いてもらった作品は、今は誰のものとも言えない。

 

紙芝居『山姥』はたった12枚の絵に添えた話で、子どもたちをふるえあがらせる不思議な力を持っている。

第一にそのシンプルなストーリー展開。4歳と2歳の孫娘を寝かしつける時に、出来立てホヤホヤの話をしてみた。ちなみに下に生まれた弟は赤ちゃんで、山姥に出てくる3人きょうだいと同じ順序立て。3人は山を越えた所に住んでいるおばあさんに、もちと干し魚を持っていくように頼まれて、出発するのだが、弟だけは何も持っていかない。

「おーい、おいてけー、一番目のむすめっこ、おまえのもちをよこせー」

「おーい、おいてけー、二番目のむすめっこ、おまえの魚をよこせー」

ここまでは捨てるものがあるから、時間稼ぎができる。姉はもち、妹は魚を投げ捨て、3人は走って、走って逃げることができる。

最後に追いかけて来た山姥が「おーい、待てー、チビの小僧っ子ー、おまえをくわせろー」と言ったら、今度は何を捨てればいいのだろう?

「やめてー!」と叫んだのは妹の方だった。布団に潜って耳を塞いでいる。

その後、話はクライマックスに達して、3人は池端の松の木に登り、水面に写った3人の影をめがけて飛び込んだ山姥は、泳げず、溺れて死ぬというお決まりのコースなのだが。

第二に山姥の足と白髪を強調した絵の恐ろしさ。モンゴルで障害のある子どもを指導している保育士宅で、自閉症の男の子に読み聞かせをしたことがある。まだ、最初の方の場面。もちを捨てて逃げた後、追って来る山姥の後ろ姿を見て、彼は手にした白いボールペンを部屋の隅に向かって投げた。

あれから数年。

昨年からモンゴルの首都ウランバートルにある障害児センターで、子どもたちにリハビリや学習指導をしている。クリスマスに山姥紙芝居をプレゼントしたら、お父さんの一人が紙芝居舞台を作ってくれた。

大勢で見ると怖さは爆発しないものらしい。

その発見がちょっと嬉しい。