言語聴覚士になるには言語障害の知識だけではなく、その基礎となる心理、教育、福祉、医学、統計学の全般にわたって、2年間学びます。医学の分野だけでも、解剖学、耳鼻咽喉科学、神経学、脳外科学、内科学、老人医学、リハビリテーション学などがあります。

小児科学はその一部を占めています。毎年1年生に4月から6月まで、全部で15コマの講義をしています。

小児科学講義日程

項目
第1回言語障害児の生活支援
第2回小児の運動発達
第3回小児の言語発達(新生児期から始語まで)
第4回小児の言語発達(始語から会話へ)
第5回摂食・嚥下機能の発達(離乳食の進め方を含む)
第6回胎児医学と出生前医学(生命の誕生)
第7回胎児医学と出生前医学(ダウン症児の成長とことば)
第8回胎児医学と出生前医学(出生前診断を巡る問題)
第9回周産期障害
第10回脳性麻痺と重症心身障害児
第11回てんかんと痙攣性疾患
第12回感染症と予防接種
第13回発達障害(自閉症スペクトラム)
第14回発達障害(学習障害 ADHD )
第15回子どもの虐待

小児科学のすべてを15回の講義では伝えきれません。大学で経済学、英語学、生物学、心理学、教育学など、多様な学科を卒業したての学生から、しばらく仕事をした後入学して来た新一年生に何を伝えたらいいか、考えました。枠組みはこの20年間変わりませんが、時代と共に新しくなる知識をとりいれ、映像を集めて、毎回ドキドキ、眠たくならない授業を目指しています。

その1 言語障害児の生活支援(第1回)

総論です。
ことばに障害をもっていても、他の子ども達と共に育つことが、成人後の社会生活につながります。幼稚園・保育園、学校生活、社会生活をおくっている子どもと大人を紹介して、STの役割を考えます。

その2 子どもの発達(第2回から第5回)

生まれた時は寝たままで話をしなかった赤ちゃんは、1年を経て歩きだし、ことばをしゃべり始めます。おっぱいしか飲まなかった新生児は、1歳を過ぎる頃には大人の食べものを食べ始めます。

映像を見て観察しながら、この過程を辿ります。

その3 生命誕生と胎児医学(第6回と第7回)

地球誕生から40億年をかけて進化して来た生命。1個の受精卵が分裂して   胎児となり、誕生するまでを学びます。遺伝子は突然変異を繰り返します。実はこれが命の多様性につながり、生まれつきの病気にもつながります。
遺伝子や染色体の変化は、受精卵の段階から胎児の病気をもたらします。また、胎児期に薬や放射能、ウィルスなどの影響を受けて、生まれつきの病気をもって生まれて来る子どもたちがいます。
病気だけを見てはいけません。ダウン症の子ども達の映像を見て「障害」をもっている子どもの暮しについて考えます。

その4 出生前診断(第8回)

授かった命を胎内で慈しみ育て、出産を迎えたのは、もう昔のことになりました。出生前に胎児の病気や障害がわかる時代になったのです。

妊婦さんが受ける胎児エコーも出生前診断の一つです。最近では妊婦の血液中の胎児DNAを調べて、ダウン症などの染色体異常を診断する検査が普及しつつあります。この検査で胎児の障害がわかった時、90%以上の妊婦が妊娠中絶をしています。学生個々に出生前診断を受けるかどうかを問い「障害児を産み育てること」について考えます。

その5 出産時の病気(第9回)

早産のため低体重で生まれる赤ちゃんがいます。その後の成長や発達も、大きく生まれた赤ちゃんとは違う中で、子育てをしなくてはなりません。

出産は赤ちゃんにとっても、お母さんにとっても環境が激変するイベントです。せまい産道を通って出てくる間に、様々な不都合が起こりえます。それが、赤ちゃんの身体に「障害」を引き起こす原因ともなります。

その6 脳障害の子ども (第10回と第11回)

生まれつきの病気や出産時の病気、また、生まれてからの病気によっても、脳神経が損なわれます。脳神経の細胞は再生することがないため、運動障害や言語障害を引き起こします。てんかんのような痙攣発作を伴うこともあります。

その原因や症状を知り、てんかんの対処法について学びます。

その7 感染症と予防接種(第12回)

どの子どもも必ずかかる感染症と予防接種について紹介します。

その8 発達障害(第13回と第14回)

発達障害とひとくくりにされますが、子ども達の抱えている困難さは様々です。自閉症スペクトラム、ADHD(注意欠陥多動性障害)、学習障害の子どもの現

状を紹介します。症状を抑えるために向精神薬を処方する医師が増えています。医療と教師・言語聴覚士の関係に付いて考えます。

その9 子どもの虐待(第15回)

虐待されて育った子どもが年々増えている現状があります。虐待の現状を知り、社会人として言語聴覚士として出来ることを考えます。

その10 モンゴルの障害児支援活動

2010年以降、モンゴルの障害児と関わって来た経験から、国柄の違いによる「障害」のとらえ方、国際支援のあり方を紹介します。