「もりのてがみ」のその先へ

「こんどいっしょにあそびましょう。

もりにすみれがさいたら もみのきのしたで まっています」

寒い冬の日、小さな女の子、ひろこさんはストーブの側で、りす、とかげ、ことり、のうさぎ、もみのきに手紙を書いて、森の中の大きなもみの木につり下げに行きました。

だんだん季節は進んで、森には雪が降り、もみの木は真っ白。誰からも返事はありません。

急に暖かい日が続いたと思ったある日、「とんとん」とひろこさんの家のドアを叩く音がしました。玄関にはくるみと、石と、タンポポと、きのみが。。。

ひろこさんは走って森に行きました。道にはすみれが咲き出しています。木の周りには動物たちが子連れで集い、もみの木からの返事のように小さな木の芽が出ていました。

この絵本は横浜市で森の幼稚園を続けて来た、もみの木園の尾上さんから頂きました。園名の由来となった絵本です。5年前、もみの木園に通っていたJくん一家と共に、ことばの相談に来られたのが、最初の出会いでした。J君は今、小学校に通っています。

2016年秋からNPOニンジンはJICA草の根技術協力支援事業として、ウランバートルにある2つの障害児センターで、障害児をどう育てたら良いか、日本での経験を伝える活動を始めました。私はプロジェクトマネジャーをしています。ゲゲーレン、サインナイズセンターは3年前に、障害児をもつ両親が集まって、共に子どもを育てようと活動を始めました。年3回ニンジンチームが訪問して、直接リハビリや教育指導を続けています。チームが居ない期間には、毎週土曜日に親子が集まって、日本から定期的に送るリハビリプログラムや教材を実践しています。

モンゴルのお父さん、お母さん達に、ぜひ、J君ともみの木園を紹介したいと思い、昨年3月にビデオを作成しました。モンゴルでの上映後、もみの木園の子ども達からの手紙を届けたことがきっかけで、2つの障害児センターとの交流が始まりました。Facebookに園長の尾上さんが撮った子ども達の写真をアップして来ました。私が書いた短いモンゴル語の紹介文を添えて。子ども達が徒歩で川添いの道を下って、湘南の海に到着した遠足の記事は、海を見たことがないモンゴルの子ども達には、新鮮に映ったことでしょう。

「もみの木園のように、野外活動をさせたい」と昨年6月には、ゲゲーレンセンターがバスを借りてウランバートル近郊の川に出かけました。流れに入ってはしゃぐ子どもや大人達の動画が、Facebookにアップされました。9月末には雪が降り始め、5月初めまでは雪が降る国の短い夏です。渡航活動中だったニンジンチームも貸切バスに同乗して、夏の遊びに付き合いました。

先日、もみの木園20周年記念のお祝いの会に参加しました。現役の子どもとお母さん、お父さん達が、バイオリンとキーボードの伴奏で「おおきい木」の歌を披露しました。まどみちおさんの詩に金光威和雄さんが曲をつけています。

ちいさなたねからめをだして

こんなにおおきくなったのか

おおきい木 おおきい木 おおきい木

じゅうにんでかかえても

まだてがとどかない とどかない

20年前に障害を持っている子どもを受け入れてくれる幼稚園が見つからず、それなら一緒に育ちあおうと、7人の子ども達が集まって始めた元祖もみの木園の先輩2人にも、会うことができました。もう25歳、すっかり大人です。

「最初始めた時は、この1年だけと思っていたのが、20年間も続いた」という尾上さんの挨拶を聞いた時、モンゴルの2つの障害児センターのことを思い浮かべました。私たちがいつも一緒に活動できる訳ではなく、言語の壁も厚く、国やウランバートル市からの経済的援助が十分であるとは言えません。リーダー達に「この草の根事業が終わっても、センターの活動は大丈夫でしょうか?」と尋ねた時「必要だという子どもがいる限り、やるべきことをやって行くだけだ」という答えが返って来ました。

そうそう、友人のモンゴル人に頼んで翻訳してもらった文を2冊の絵本に貼り付けて、モンゴル語の「もりのてがみ」を作ってくれた1人のお母さんにも、この会で会うことができました。2つのセンターの本箱にしっかり収まっていた姿を確認済みです。次に行ったら音読してみて、発音のおかしなところを教えてもらおう。(2018.3.28)