子供が産まれる現場に立ち会うのは、産婦人科医の仕事です。けれども、小児科医も次の子を産むべきかどうか相談を受けることがあります。私は「ことばの相談室」に通ってくる「障害」のある子のお母さんから、次の子が「障害」を持つ可能性について、時々、尋ねられます。原因がはっきりしない場合が多く、たいてい「そんなこと、分かりませんよ。妹や弟ができたらうれしいでしょう。ぜひ産んでください」と答えるのですが、もし遺伝するものであれば、その確率を伝えます。
最近では出生前検査が行われ、妊娠中に胎児が病気を持っているかどうか診断するようになりました。また、「障害児」の親に限らず、妊娠したらだれでも出生前検査を受けるように勧める動きが、各地で活発です。
産婦人科の外来では、超音波検査、羊水検査、絨毛(じゅうもう)検査、トリプルマーカーテストなどが行われています。病気が発見されても、治療方法があれば妊娠を継続することになるのでしょうが、ほとんどの場合は、中絶を選択しています。
先日の新聞報道では、日本産婦人科学会は「着床前診断」にゴーサインを出しました。体外受精をした受精卵の遺伝情報を検査し、病気を持っている受精卵は捨てて、持っていない卵だけを子宮に入れて着床させます。生命の選別が行われるのです。
この夏に「こども診療所」に通院している子供のお母さんたちにお願いして、「出生前検査」のアンケートを取りました。20才から70才まで、200人余りが回答を寄せてくれました。超音波検査は、多くの人が受けていましたが、羊水検査や絨毛検査、およびトリプルマーカーテストを受けたのは、延べ17人でした。これらの出生前検査は、思っていたほど、当たり前の検査にはなっていないようです。
子を産み、子育て中のお母さんたちは、自分の問題としてホットに考えてくれました。きっぱりと「障害を持つ子の中絶は障害者差別だと思います。ナチスと同じだと思います」と言い切る人。他方では、もし、自分が選択を迫られたら、産むべきか産まざるべきか、深く迷った回答もありました。家意識が強く、経済的に夫に頼っている中では、母親だけが産むと頑張っても、押し切られることもあるでしょう。
アンケートをきっかけに「自分の子が『障害』を持った子供たちと付き合う機会がなかったけど、どうしたらチャンスがつくれるだろうか」という相談もあり、さまざまな反響に頼もしさを感じています。